【視点】沖縄と縁深かった首相

 史上最長政権を実現させたばかりの安倍晋三首相が28日、辞意を表明した。歴代首相の中でも、とりわけ沖縄や八重山と縁が深い一人であり、その存在感は大きかった。
 沖縄の最大の課題である米軍基地問題では、日米合意に基づいた基地の整理縮小を推進し、北部訓練場の過半となる約4千㌶の返還を実現した。復帰後最大の面積であり、安倍政権下で基地負担軽減は一定程度進んだ。
 普天間飛行場の辺野古移設は翁長雄志、玉城デニーの2知事の間で深刻な対立を引き起こした。だが同飛行場の返還実現に向け、事業推進に強いリーダーシップを発揮したことは歴史が評価するはずだ。
 2013年に仲井真弘多知事が辺野古沿岸の埋め立てを承認した際、現行の沖縄振興計画の期限である2021年度まで沖縄振興予算を3千億円台で維持すると表明した。辺野古移設に反対する翁長、玉城県政になって予算は減少傾向になったが、3千億円台維持の約束は守られている。
 沖縄振興計画の期限は目前だ。埋め立て承認当時の当事者だった知事と首相は、仲井真氏だけでなく、安倍氏もまた退場することなる。政府の沖縄振興策は大きな岐路を迎えることになるかも知れない。
 沖縄振興策の中でも大きな進ちょくを見せたのは観光インフラの整備だ。那覇空港の第2滑走路建設、モノレール延伸や車両の3両化決定、離島の宮古や石垣も含めた港湾整備が挙げられる。現在、新型コロナウイルスの感染拡大で観光産業の先行きは不透明になっているが、どれも「観光立県」には必要な事業だ。
 安倍氏は2013年、現職の首相としては復帰後初めて宮古、石垣を訪れ、尖閣諸島周辺の警戒に当たる海上保安庁職員らを激励した。施政方針演説でも、たびたび石垣島の港湾整備や石垣牛などに言及し、本島中心の沖縄振興だけにとどまらない「離島振興」への意欲も示した。
 こうした目配りが、本島とは対照的に、宮古、八重山で自民党の支持が根強い理由の一つだろう。
 尖閣諸島問題では、自民党の政権復帰前に掲げた公務員の常駐などは実現していない。政府は現在でも、海保の巡視船増強などで中国公船に対応している。
 一方で、安倍首相が習近平国家主席の国賓訪日を計画したことが波紋を広げた。コロナ禍で事実上中止になったが、保守派で知られた安倍首相だったから、支持者もある程度納得し、実現の一歩手前まで進んだのかも知れない。
 安倍首相の対中融和路線には自民党内からも疑問の声が多く、他の人物が首相であれば不満を抑え切れない可能性も大きかったはずだ。次期首相の対中政策も尖閣情勢に直接的に関わってくるから、県民にとって他人事ではない。
 安倍首相の強い政治力は「一強」などと揶揄(やゆ)されることもあった。だが、小泉政権のような例外を除き、安倍氏以前の近年の首相はいずれも権力基盤が弱く、猫の目のようにくるくる交代した。そのため、日本の国力低下に歯止めを掛けることができなかったと言える。安倍首相が史上最長となる8年間もの政治的安定を日本にもたらした実績は大きい。
 沖縄振興にせよ辺野古移設にせよ、強力な首相が相手でなければ沖縄も、まともに交渉はできない。
 沖縄は安倍政権の間に、政府と真正面から向き合って良好な関係を構築し、県民生活向上のための施策を大きく前進させるべきだった。だが辺野古移設にこだわるあまり、現実は全く逆になってしまった。翁長知事以来、現県政に至るまで、安倍政権との対立を深めてきた6年間の歳月は、もったいないの一言に尽きる。

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