【視点】「自殺の連鎖」に高まる懸念

 芸能人の自殺と見られる訃報が相次いでいる。7月以降、俳優の三浦春馬さん(30)、芦名星さん(36)、藤木孝さん(80)と続き、今月27日には竹内結子さん(40)が死去した。会員制交流サイト(SNS)による誹謗中傷の後に死去したプロレスラー木村花さん(22)の例もある。有名人の自殺は社会的影響が大きく、今後も一般人も含めた自殺の連鎖に懸念が高まる。
 加藤勝信官房長官は28日の記者会見で、7月以降、自殺が増加のきざしを見せていると指摘した上で「相談窓口もある。周辺の方が『相談したらどうか』というサゼスチョン(示唆)を与え、自殺のない社会をつくっていただけるようお願いしたい」と呼び掛けた。
 三原じゅん子厚労副大臣は27日のツイッターに「この7~8月の統計で、昨年比4割の女性の自殺が増加している。コロナ禍のストレスなのか理由は判明していないが大変問題視していた矢先…」と書き込んだ。
 新型コロナウイルスの感染拡大も自殺増加の要因だろうか。自粛生活を余儀なくされ、人間同士の交流が減ったり、孤立化が目立ったりしていることを指摘する声もある。コロナ禍が経済的な苦境とは別に、人間の精神状態に影響を与えている可能性は否定できない。
 三浦さんや竹内さんのように人気絶頂で、順風満帆に見える芸能人たちが死を選ぶ理由は、周囲からは計り知れない。報道によると、自殺の兆候のようなものに気づいた人はいなかったという。自殺の連鎖は芸能界だけで起きていることなのか、社会全体に広がる動きなのか。注視が必要だ。
 芸能人の相次ぐ死は、どんなに恵まれているように見えていても、不意に自殺に踏み切ってしまう可能性があるということを改めて示した。その意味では、うつ病が限られた人だけの病では決してないことに似ている。
 自殺は本人にとっても痛ましい出来事だが、残された遺族や関係者にも終生消えない傷をつける。こうしたことが起きるのは、社会全体にとって大きな損失だ。地域が一丸となり、生きづらさを抱える人を支える仕組みづくりに取り組まなくてはならない。
 沖縄では毎年約200人が自殺している。2015年から5年間の統計では、50代が22・2%、60代が19・0%を占める。職業は無職者が全体の4割となっている。
 八重山保健所によると、八重山地区の自殺者は17年13人、18年8人、19年7人となっている。15年から5年間の統計では、40代男性が全体の22%を占めており、国や県に比べ、有職者の働き盛りの自殺が多い。自殺は大都市だけの問題ではなく、八重山のような小さな離島でも起こる。離島の魅力とされる濃密な人間関係がかえって負担になるケースもあるのかも知れない。
 いずれにせよ自殺を他人事とは捉えず、家庭、職場、学校で、ちょっとしたサインを見逃さない心配りが大事だ。
 国、県、市がそれぞれに悩みの相談窓口を設置しており、最後の手段として死を考える前に、まずは相談してみることを呼び掛けたい。悩みを誰かに打ち明けるだけで心が軽くなるとよく言われる。自分の悩みを一人で抱え込まず、他人の悩みにも真摯に耳を貸すことができる地域づくりを目指したい。

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