【視点】 台湾有事発言 中国抗議は不当

安倍晋三元首相が台湾のシンクタンクの招きに応じてオンラインで講演し「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と述べた。これに対し中国は駐中国日本大使を呼び出して抗議し、報道官は「中国の譲れない一線に触れるものは、誰であろうと頭をぶつけ血を流すだろう」と反発した。
台湾有事が沖縄有事であることは、沖縄県民、とりわけ台湾と地理的に近接した八重山住民は誰もが肌で感じている。中国の抗議が受け入れられないのは当然で、むしろ中国こそ脅迫的な言辞を撤回すべきだ。
中国は南シナ海の支配を狙い、艦船を動員してフィリピンやベトナムの漁船に威嚇的な行為を繰り返している。尖閣諸島周辺でも、領海侵入した中国艦船が八重山の漁船に接近、追尾するケースが常態化しており、南シナ海の出来事はとても他人事とは思えない。
香港では民主化を訴える人たちが次々と拘束され、メディアが一斉に沈黙させられる様子を世界が目の当たりにした。今度は台湾の防空識別圏に多数の中国軍機が進入している。
南シナ海の次は東シナ海、香港の次は台湾、そして、その触手は最終的に尖閣へと向かう、中国の振る舞いを見ていると当然、誰もがそう思う。中国は、良識ある国際社会の懸念に真摯に向き合わなくてはならない。
安倍氏は講演で、台湾有事は日本有事、日米同盟の有事だという認識について「とりわけ習近平国家主席は断じて見誤るべきではない」「習主席と中国共産党のリーダーたちに『誤った道に踏み込むな』と訴え続ける必要がある」「台湾に軍事的冒険を仕掛けた場合、世界経済に重大な影響を及ぼし、中国は深手を負う」と指摘した。
中国は世界的な経済大国、軍事大国であり、現在の国際社会が米中を基軸に動いていることは紛れもない事実だ。その存在感は否定できない。
来年は日中国交正常化50周年を迎える。対立より友好、反目より連携が世界をより発展させ、豊かにする。それは誰の目にも明らかだ。
だが、どの道を選択するかは中国指導部の決断に百%かかっている。日本の国際的責任とは、中国に正しい警告を送ることだ。その意味で安倍氏の発言は妥当である。
台湾海峡の平和と安定がどれほど重要か、沖縄県民ほど身にしみて実感している住民はいない。だからこそ、県民の立場からも中国指導部に対し、中国が負っている責任の重さを繰り返し伝える必要がある。
当事者として、尖閣諸島周辺での横暴な振る舞いは絶対に許さないという決意を示すことも重要である。
沖縄は中国人観光客の誘致に力を入れてきたため、中国指導部に対する毅然としたメッセージを発する機会が少なかった。コロナ禍で海外観光客が激減している今は、中国との関係を見直すチャンスでもある。

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