与那国島新川鼻の洞窟で、探検中のツアー客1人が死亡、客とガイドの2人が一時行方不明になった事故は、10日の発生から1週間が過ぎた。ガイドは事故が起きた洞窟で多くの客を引率し、内部を熟知していたことがわかった。では狭い空間で短時間に何が起きたのか。アクティビティの多様化とともに、ケイビング(洞窟探検)への関心もにわかに高まりをみせるなか、事故の全容解明が急がれる。
▽経験者対象の難コース
事故が起きたのはケイビング上級者向けの「Bコース」。ツアーを実施したアクトプロのパンフレットによると、別名「水洞窟」と呼ばれ、絶えず流れる地下水に浸りながら進む。「肩まで水に浸かったり、ほふく前進でしか進めない極狭空間に挑む」と記載され、ケイビング経験者対象の難コースだ。今回の客2人はケイビング経験があり、希望してBコースを選択したという。
もう一つの「Aコース」は、入門者向け。今回のガイドは、Bコースを主に担当し、昨年11月のツアー開始以降、29回探検、約50人の客を引率し、経験豊富だった。
▽想定外重なったか
事故当日は午前3時から断続的に雨が降り、天気図は気圧の谷の存在を示していた。ツアーを開始したとされる午前10時ごろは、11時までの1時間に21・5ミリ、正午までの1時間では14・5ミリを観測。、雨が止んだのは午後4時以降だった。
関係者によると、探検の終盤で、1人が携帯電話をなくしたことに気づいて、探すために3人が離れているときに、急に水位が高まったとガイドは証言しているという。携帯探しと、急な増水という想定外の事態が重なった状況がうかがえる。
八重山署では、近く現場検証を行い、3人が洞窟に入ったときの水位、離れた場所や水位を確認。ガイドの天候判断やツアー決行の適否を含め安全管理に問題はなかったかを調べる。
世界の洞窟を経験しているベテラン探検家は「ちょっと雨の降り方が変わるだけで、洞窟内の状態が全く違う事態になることはよくある。川のアクティビティならある程度想定できるが、洞窟内の想定は困難。情報の共有もしにくい。ふだんから集水域はどこか、ひび割れはないか、など状態を確認し、知識を上書きしていくことが必要」と、洞窟探検の困難さを指摘する。
▽町有地
Bコースの洞窟がある土地は町有地だった。アクトプロの広報担当者は「町有地を使わせていただいているが、こっそりやっているわけではなく、他の方が使えないように独占的に占有しているわけではない。法律的には問題がないと認識している」との見解を示す。Aコースは地権者と契約の上でツアーが行われているという。
糸数健一町長は今回の事故について苦渋の表情を浮かべ、ツアーの是非についても「ノーコメント」と言及を避けるが、地元住民の間には「神聖な空間なので、洞窟探検に限らず、観光客らには立ち入ってほしくない」という空気が漂う。
アクトプロの新谷学社長は、今年6月、八重山日報のインタビューに応じ「観光客が増える状況を作るため、洞窟ツアーをやっている。観光で島に貢献したい」と述べ、洞窟探検を始めた理由を説明。「洞窟は素晴らしい観光資源だが、ごみが捨てられている場所もあり、残念。地権者の許可を得て、経費を払い、清掃して利用している」と強調していた。(記野重公)