米ワシントン大の研究者らは、2035年に中国の経済規模が米国を抜き、世界トップに立つと予測した。中国の指導者に対しては、21世紀の超大国にふさわしく、世界に範を示すような言動を期待したい。だが孔鉉佑(こう・げんゆう)駐日大使が在日中国大使館のホームページに掲載した日本国民への談話を読むと、他国に対する強圧的な振る舞いの正当化と詭弁(きべん)に満ちあふれており、現状の中国が世界各国の信頼を得られるとはとても思えない。
八重山住民にとって聞き捨てならないのは、尖閣諸島問題についての言い分だ。2012年に日本政府が石垣市の尖閣諸島を国有化したことに関し、日本が現状を先に変えたとして「公船派遣による釣魚島海域の法執行パトロールを含め、必要な対応を取らざるを得なくなった」と強調した。
中国が尖閣諸島奪取に向けて行動を起こした時期は、日中の経済力が逆転し、中国が世界第2位の経済大国に躍り出たタイミングと一致している。経済力や軍事力で日本を超えたという自信が尖閣周辺での実力行使につながったと考えるのが分かりやすい。
日本の尖閣国有化に対して、中国は内心「これで尖閣を奪取する口実ができた」と膝を叩いた可能性すらある。尖閣周辺だけでなく、南シナ海でも一気に攻勢に出ていることを考えれば、国力の充実が海洋進出を後押ししていることは明白だ。だが、力任せの対外膨張は本質的に侵略と異ならない。
自国の海洋進出に関しては「侵略・拡張は中国の政策の選択肢ではなく、そうなることは有り得ない」と言明した。言葉と行動が乖離(かいり)している。
孔大使は尖閣問題を「両国関係の大局に影響させないことが重要だ」と訴えたが、そのためにはまず、中国政府が尖閣周辺に常駐している公船を退去させるべきだ。
香港の「一国二制度」を軽視する行動も中国のイメージを悪化させている。孔大使は「香港国安法は世界の多くの国や地域の刑法の規定と一致したものだ」と説明した。香港の民主化運動について「分裂、転覆、浸透および破壊活動を進めた」と批判した。
日米欧は、香港で自由や民主主義という価値観が破壊されたと受け止めている。認識のギャップを深刻に捉えざるを得ない。
米国は、中国が新型コロナウイルス発生時の抑え込みに失敗し、ウイルスを世界に拡散させたと指摘している。少なくとも独裁政権の隠蔽体質が不信感を招いていることは間違いない。
しかし孔大使の談話では、感染拡大に関する反省の言葉は一切なく、米国の批判を「ウソとぬれぎぬ」「あからさまな政治的操作」と一蹴した。共産党政権の内部で初期対応の検証は本当に進んでいるのか。この問題は中国に限ったことではないが、失敗の経験を真摯に生かさなければ世界的な感染防止策は確立できない。
中国に一国で対抗できる唯一の超大国である米国は、大統領選を控え、トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染するなど混乱を極めている。米国の力の減退は、中国による尖閣諸島への圧力強化という形で沖縄に跳ね返ってくる懸念がある。
石垣市議会は9月定例会で、尖閣諸島への上陸や施設整備を求める決議を可決した。中国の行動がエスカレートした場合の対抗策として、尖閣諸島への上陸や施設整備は有力な切り札になる。
地元の決議は政府にフリーハンドを与え、硬軟取り混ぜた対応を可能にする。保守系議員だけでなく、革新系議員も含め圧倒的多数で決議された意義は大きい。