ICUNは現地調査などを経て今年5月、世界遺産登録すべきだと勧告し、ようやく登録決定への道筋がついた。登録への動きが本格化して8年、紆余曲折の末の念願成就と言える。
竹富町の西大舛高旬町長は「遺産登録は重要な節目だが、これがゴールではない」と強調した。地域の知名度が世界的に向上するというプレッシャーの中で、世界遺産の価値をどう維持していくか試行錯誤が始まる。ゴールではなくスタートである。
西表島でも住民の声は必ずしも歓迎一色ではなく、観光客の急増で島の自然が踏み荒らされることを危惧する声が上がっている。竹富町は観光客受け入れに上限を設定する方向だが、観光振興を進めながら観光客数をコントロールするのは、アクセルとブレーキを同時に踏むような難しさがある。
イリオモテヤマネコの交通事故死が後を絶たないのも頭の痛い問題だ。住民や観光客の安全意識向上は不可欠だが、都市化の進展を緩やかにしないと事故のリスクは下げられない。生活の利便性向上を求める住民の理解をどう得ていくかも課題になる。
世界遺産登録を機に観光の「量から質」への転換を求める動きが加速するのは間違いないだろう。既に新型コロナウイルスのまん延で、右肩上がりの観光客数を追求する「量」の拡大路線は見直しを迫られている。八重山、沖縄全体で観光のあり方を再考する時期に来ている。