【視点】「第1波越えた」という誤信

 玉城デニー知事は13日、新型コロナウイルスの警戒レベルを、最高の「感染蔓延(まんえん)期」に引き上げ、県独自の緊急事態宣言も2週間延長すると発表した。一方で来県自粛要請には踏み込まず、従来通り観光客の受け入れを続ける姿勢を示した。
 感染急拡大で医療機関の逼迫(ひっぱく)が深刻化し、14日現在で医療機関の病床は9割以上埋まっている。入院も宿泊施設の利用もできず、自宅療養を余儀なくされている感染者が約400人いる。
 重症患者は17人だが、重症予備軍ともいえる中等症患者は約90人いる。重症者用の病床は、既に6割が埋まっている。今後、重症者が急増した場合、医療体制は追いつけるのか。
 医療崩壊が現実化した欧州では、重症者が十分な治療を受けられずに次々と死亡、スケート場などの広い場所を急きょ遺体安置所として利用し、多数のひつぎが並べられるという惨状が報道された。
 よもや現代の先進国でそのような事態が起きるとは信じ難かったが、ほかならぬ沖縄で今、医療現場を取り巻く環境が急速に悪化している。感染者数は連日、百人前後の勢いを示している。本島の流行レベルは極めて深刻だ。
 感染拡大の発端が観光客などのウイルス持ち込みであることは間違いないだろう。全国で感染が終息していない時期に人の往来を促進したとして、政府の観光支援策「GO TОトラベル」がやり玉に挙げられることが多い。
 だが沖縄が官民とも「GO TО」に異議を挟まず、感染防止策を徹底しながら観光客を迎え入れる道を選んだのも事実だ。沖縄は観光産業を中心に経済が回っており、4月のような来県自粛や営業自粛は、経済の凍死を意味するからだ。
 問題は感染拡大が落ち着いた5月以降の2カ月間に「第2波」を見越した準備をどこまで進めていたかである。
 結果論になるが、病床、宿泊施設、医療スタッフの確保などといった医療体制整備は全く準備不足だった。県は医療機関に病床の増床を要請したり、那覇空港で観光客に抗原検査を実施する方針を示したが、今からでは遅きに失している。県にせよ民間にせよ5月の時点で「第1波」を無事乗り越えたという状況判断の甘さがあったのだろう。
 玉城知事は13日の記者会見で、来県自粛要請を出さない理由を問われ「今は県外からの移入例より県内での感染拡大が多い」と説明した。直近1週間では感染経路不明が7割以上に達しており、県外からの移入例ではなく、県内でうつったと見られる市中感染が拡大している。仮に今から来県自粛要請を出しても、時すでに遅しではないか。
 そもそも県独自の緊急事態宣言などの影響で、ホテルでは予約キャンセルが相次いでおり、ただでさえ観光客は減っている。
 玉城知事は県民に対し「新しい生活様式」に即した「徹底した行動変容」を求めた。感染拡大がもはや観光客の問題ではなく、県民自身の問題であることを訴えたのだ。
 本島でのクラスター(感染者集団)発生は「夜の街」にとどまらず、病院や福祉施設、保育施設にまで広がった。5月以降、「3密」回避などの県民の感染防止意識が薄らいだことが原因であるとしか思えない。
 現状が「第1波」の続きなのか、「第2波」なのかは分からないが、いずれにせよ沖縄は「第1波」を乗り越えてなどいなかった。そう反省して次の行動に進むほかない。

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